FC2ブログ

返答

今日はタネとりに関する質問が来た。自家採種の本を読んでの質問だという。著者のN課長が返答してくれると思っていたら、この分野は自分の専門じゃないからっとあっさり流されてきた。そこで返答を書いていたら、半日終わってしまった。でもありがたいことだ。せっかくなのでマイミクさんたちにもシェアしておこう。

[質問]
> ①アブラナ科の野菜は近交弱勢を起こしやすいため、自分達の種を保存す
> るめ自家不和合性という自家受粉が少なくなる仕組みを自然に身につけたも
> のでしょうか?
 
[回答]
 アブラナ科野菜は自家不和合性を持ち、他家受精の機会を増やしており、
結果として近交弱勢を回避することに一役買っている場合が多いとは言えます。しかし、アブラナ科野菜は近交弱勢を避ける為に自家不和合性を身につけたとは言えないと思います。アブラナ科作物には自家受精する作物もあり、それぞれの生存戦略の中で、自家不和合性が果たしている役割は異なるからです。

[質問]
> ② 既存のアブラナ科のF1種は、両親として出来る限り完璧の自家不和合
> 性能力を純系(ホモ)として固定させて、交配して雑種強勢を生み出すよう > にされているのか? これは、自然界からしたらありえないことですか?
> それとも自然界でも自家不和合性を身につけているアブラナ科は起こり得る
> ことなのですか?

[回答]  
 既存のアブラナ科野菜(キャベツ類、ハクサイ、カブ、ダイコンなど)のF1品種の多くは、強い自家不和合性の系統を選び出し、自家不和合性遺伝子型をホモ化して、雑種を採種する方法を採用しています。
 自然界というのはどの段階をイメージしているのかが分かりませんが、あるカブ品種の固定種を想定することにします。
 まず自家不和合性には強弱があり、固定種品種内の全ての株が他殖するわけではなく、自殖する株もあるし、同じ自家不和合性遺伝子型同士でも交雑する株もあるので、自家不和合性遺伝子型がホモ化している個体というのも固定種内にも存在します。つまりカブの固定種に自家不和合性遺伝子型のホモ個体が存在することはあり得ることです。しかし1つの集団が1つの自家不和合性遺伝子型で揃っているということは起きないでしょう。
 雑種強勢というのは自家不和合性とは別のものです。雑種強勢というのは、カブの根部の形状が若干縦長であるものと横長であるものが交雑したら、F1は両親の中間の形状で揃い、しかも大きな蕪になるといった現象のことです。雑種になれば必ず強くなるわけではなく、雑種強勢が大きく現れる組み合わせがあります。 F1品種はこの特定の組み合わせを見出して利用しています。通常の固定種中では、他殖個体が大半を占め、個々体は常に雑種状態と言えますが、それは雑種強勢とは言いません。

[質問]
> ③玉葱や人参の雄性不稔形質についても、アブラナ科の自家不和合性形質
> と同様に種が自分で自分の身を保存するために、そして近交弱勢を避けるた
> めに、自殖しないようにという自然からの形質でしょうか?

[回答]
 多くの作物で雄性不稔が知られており、作物一般の性質と考えることが出来るでしょう。しかしそれがその作物にどう役立っているかは、個別的なことです。種族の弱体化を防ぐ場合もあるでしょうし、何の役目も果たしていない場合(生存に対して中立)もあるでしょう。その作物種の生殖様式や周囲の自然環境、あるいは人間との関わり方によっても役割は変わってきます。そのような多様なあり方を通して作物は進化・分化してきたのであり、近交弱勢を避けるためといった合目的的な解釈は出来ないでしょう。

[質問]
> ④雄性不稔について、ある文献で読んだのですが、正常な生殖能力を持たな
> い異常な株、ミトコンドリア異常で起こる雄花のない異常株は、人間に例え
> るとインポや無精子症の個体の性質であると。しかし、ミトコンドリア遺伝
> 子を修復しようとする働きもあるようですが、これはシブの原因になるので
> 種苗会社はすべて排除する。 したがって健康を取り戻そうとする野菜を排
> 除して不健康な野菜を商品とする種苗業は何かおかしい?
> この論評は当たっているのですか?

[回答]
 異常という表現は、生物学研究としては「異なるタイプ」という意味です。
雄性不稔もその生物が持つたくさんの性質の1つであり、雄性不稔の仕組みも実は多様です。いくつかの植物の雄性不稔はミトコンドリア遺伝子の特定の型があり、それが雄性の生殖器官の形成時に通常とは異なる発育過程をとらせる引き金なることが知られています。これは生物のもつ遺伝子の多様性、形質の多様性の表現です。生物種ごとに、生殖方法、花粉や種子、そして1個体の重みは全て異なります。雄性不稔個体が果たしている役割も異なり、その生物種にとって不稔個体が一定割合で存在することが必要な(=正常である)こともあるでしょう。不稔株を異常と判断して良いかどうかは、その作物種ごとに事情は異なると思います。
 その論評には、異質な遺伝子に対して何か不健康なものというイメージで捉えているように受け取れますが、遺伝子を人間の判断で健康、不健康と分けることは出来ないと思います。植物は、生殖様式も集団の持つ意味も人間とは異なります。人間に例えることが適切だとは思いません。
 特定の遺伝子型のみを栽培品種として利用することの危険性は、その遺伝子型のみに感染する病害が蔓延する可能性があるなど、遺伝育種学の世界でも昔から指摘されています。出来るだけ栽培品種の遺伝子が多様なもので構成されていることが望ましいのは言うまでもありません。雄性不稔性やそれの引き金になる遺伝子が不健康なのではなく、栽培品種が右へならえで、1つの遺伝子型のみが使われてしまう社会が不健全なのです。

[質問]
> ⑤このように、自然・有機農業者の間には、交配種は、自然の状態では決し
> て交雑しない品種同士を人為的にかけ合わせているので、駄目だという風潮
> がありますが、もし両親の系統 が有機・自然の中で選抜固定されたものであ
> れば、伝統的育種の元では、交配種は何ら問題はな いと思うのですが
> 如何お思いになるでしょうか? 在来種、固定種にはない雑種強勢により、
> 美味しく、病気に強く市場性のある野菜が交配種から生み出されてくるので > はないでしょうか?

[回答]
 その通りだと思います。有機農業や自然農法を次世代の農業として推進していくためには、そうした農業に取り組む人が、その地域の品種を生み出すために参画できる取り組み、仕組みづくりが必要になると思います。国や地方の試験場はもちろん、民間業者も参加しての有機の種苗開発がこれからの日本農業に活路を与えると思います。

[質問]
> ⑥もちろん、現況では、交配種は、ほとんど全てが慣行・化学農法のもとで
> 採種されているので、このような状態であれば、肥毒が含まれていたり、多
> 肥栽培に向いていたりして、有機・自然農法においてはその品種の特性は発
> 揮出来ないと思います。 しかし、自然の中から生まれ る交配種は何ら問題
> はないのではないでしょうか? もちろん、放射線を照射して突然変異を起
> こしたり、細胞と細胞を無理やりくっつける細胞融合などは反自然であるの
> で、問題は多大にあると思います。

[回答]
種苗の採種そのものが自然農法で行われることが理想ですね。
品種改良法は、放射線突然変異や細胞融合は、実は自然界でもまれに起こる現象をほんの少し出現頻度を上げているだけです。細胞(命)そのものを人間は合成できません。細胞融合で融合して一応植物として成立するポマト(ジャガイモ+トマト)などは、接木部から発生するキメラ植物中から自然発生してくるものです。通常はタネの出来ないサツマイモや昔から接ぎ木をしてきた果樹などでは突然変異が多く、なぜ作物は突然変異しやすいのかは人類にとってロマンのあるテーマです。これらの技術は無理矢理やっているように見えますが、選択権は植物にあり、最終的にはその生物が環境中でその性質をどう使うかということが選抜の要なのです。植物体に備わる変異性を引き出し、その体の一部を使って行う品種改良にとって、これらのバイテクはそのツールの1つに過ぎません。
 しかし本では触れていませんが、遺伝子組み換えは事情が全く異なります。遺伝子を任意の配列につなぎ替えて無理矢理タンパク質を作らせる技術は、植物側に選択権がありません。またその遺伝子が導入後にどのように挙動するかなど、分からないことが多すぎます。生物自身が環境と関わりながら自ら変わるわけではないことから、遺伝子組み換えは品種改良とは言えないと考えています。
スポンサーサイト



カレンダー

10 | 2009/11 | 12
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -

わたむすび

最新記事

プロフィール

わたわた

Author:わたわた

わたわた(いしわたかおる)です。料理と野菜を育てることが大好きです。何気ない日常も全てこの地球の表現の1ページ。生命と進化の星、地球を表現すべく、日常の1つ1つに心を込めて「生きる」をやっていきます。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示

カテゴリ

月別アーカイブ